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2013年03月26日

【完】経営者育成セミナー参加日記(20)〜経営〜


(以前の話はこちら

よし、次もこれでいこう……

僕は、最大の「99990」を価格破壊男に見せながら
そう呟いた。

頼む……気づいてくれ……価格破壊男……。

オープンプライス!

僕は、事前に示したとおり、「99990」を提示した。
そして価格破壊男は……



99980!


え、ええっと、D(価格破壊男)さんが
 99980円で売れました……


おおおおおおおおおお!
再び、場は騒然となった。

言っておくが、これは談合ではない。
ただ僕が独占販売の成功に気を緩め、
次に出す価格をどうするか、つい呟いてしまっただけ。
その呟きを信じる、信じない、かは、
価格破壊男の自由意志であるのだから、
これは決して談合ではない。

もっとも。そうは言っても、こんな談合っぽい行為、
本来なら許されないだろう。
もし、ゲーム序盤でやったら、それこそ総すかん。
その後、徹底的につまはじきにされたに違いない。
(もっともゲーム序盤なら「1対1での競売」自体がありえないが)

だが、今は、最後のターン。
明日の朝日はもう昇らないという終末のとき。
まさに「今」だからこそ……、
そして、散々いじめられ、嫌われ、
失うもののない負け組の僕らだからこそ
できる違法寸前の行為。

次!東京、行きます!

まだ場が騒然としているうちに、
僕は次の地区を指名した。

また僕は、次、これで……

そう言って、「99990」を見せたあと、
価格表を机の下に隠した。

オープンプライス!

A 「99980円
飲茶「89990円

講師「や、飲茶さんの勝ち

次!大阪、行きます!
 ……今度は、これで行きます


僕は「89990」を見せた。

オープンプライス!」

B 「60000円
飲茶「39990円

講師「飲茶さんの勝ち、39990円で売れました

よしッ!よしッ!よしッ!
すべて計画どおり!
勝った、勝ったッ!

賭けに勝ったッッ!

ゲーム終了間際、経営者の持つ在庫が減った瞬間を狙い、
大量の宣伝広告カードで、商品を全国に置き、
独占販売」を狙う……という戦略。
しかし、この戦略では、勝利には届かなかった。
なぜなら、このやり方で「独占販売」ができるのは、
需要が「」や「」の地方の地区ばかりであり、
どんなに高い価格をつけても、売れる個数が少ない分、
利益も少なくなってしまうからだ。
それでは、トップには届かない。

ガツンと儲けるためには、やはり「東京」「大阪」といった
需要が「30」や「20」の地区で、
大量の在庫を高額で一気に売らなくてはならなかった。

そのために……、まずどこかの地区で、
99990円の価格を提示しますよ
と談合をアピールして、競合相手を儲けさせる。
そうして、「競合相手が儲かった」現場を見せ、
周囲の思考が沸騰しているうちに……、
需要の高い「東京」の地区の価格競争を開始し……、
同じように「99990円の価格を提示しますよ」
と談合をアピールしたあとに……

裏切り

89990円という高値で30個の商品を売り抜ける!

というのが僕が考えた「最後の経営戦略」であったわけだが、
結果……、見事に成功!

きっと時間を置いて冷静に考えたら、こんな稚拙な作戦に
ひっかかりはしなかっただろう。さらに僕が「裏をかかれる」
という結末もあったかもしれない。

だが、結果として、競合相手は……気がつかなかった。
」から気がついたかもしれないが、
とにかく「」気がつかなかった。
経営戦略の勝敗の分かれ目は、やはり「」にあったのである。

◆◆◆

こうして戦いは、終わった……。
結果は、僕が1位。
価格破壊男の順位は……正確な数字は忘れてしまったが、
少なくとも、ビリではなかったと記憶している。

最後に講師が、「まとめ」のような講義をし、
その終わりに、
では、上位の方々には、
 今回のセミナーで学んだこと、経営で一番大事なことは何か、
 ひとりずつ話していただきます

とコメントを求めた。

僕以外の人たちは
損益の分岐点を明確にすることです
きちんと予算の計画を立てることです
などといった模範的解答を
流暢に……堂々と……ときにユーモアをまじえて
話していった。

では、最後にトップの飲茶さん、お願いします

は、はい……あ、あの

僕はこういうあらたまった場での発言は苦手だった。
声を上ずらせ、どもりながら、たどたどしく話した。

え、えっと……、
 今……が一番大事というのかその……あの……
 あああ、すみません、よくわからないですよね……
 あ、あのそれよりも、なんというか……
 やっぱり大事なのは…………そ、その
 
 
 あきらめないこと……です。
 どんなところからでも、必ず逆転できると信じて、
 考えて考えて考え続けて……あきらめず……
 『勝負すること』……
 それが大事だと思いました


こうして、僕のセミナー体験は終わった。

セミナー終了後、何人かの経営者から声をかけられ、
これから飲みに行きませんか?」と誘われたが、
僕はそれらをすべて断り、まっすぐに家に帰ることにした。
なんというか勝負の余熱というか、熱いものがまだ胸に残っており、
どうしてもその余韻にひとりで静かにひたりたかったのだ。

帰りの電車の中。僕は、ずっと考えていた。
ゲームが始まる前に、講師はこう言っていた。

この経営戦略ゲームをやることで
 自分がどんなタイプの経営者なのか、
 どんなタイプの人間なのか、
 知ることができるでしょう


たしかに、そのとおりだと思う。この経営戦略ゲームに参加して、
僕は、自分がどのタイプの人間なのか、とてもよくわかった。

電車の中で、何度もゲームのシーンを反芻する。

材料を買い占めようとしたとき……。
それが失敗に終わったとき……。
宣伝広告カードの逆転を思いついたとき……。
価格競争の金額を吊り上げる駆け引きを打ったとき……


思い返してぶるぶると震えてきた。
秘策を思いついたときの脳を打つ快感。
そして、それを成し遂げるため、
感情をかみ殺しながら地を這い続け、
最後の最後で策が実り、逆転したときの感動……。

それだ……それが自分の求めているものなんだ……。

考えて……勝負すること……。

きっと、これが答え……。
それこそが僕にとって「経営する」ということ……
そして……「生きる」ということ……。

明日から、どう経営していけば良いのか。
今日学んだことを、どうやって現実の経営に活かしていけば良いのか。
まだ具体的なイメージはつかめていない。
だが、今回のセミナーに参加したことで、
経営者として確かな手ごたえを感じていた。

これから、大変なこともあるだろう。
理不尽に見舞われ、すべてが裏目に出て・・・・・・、
打開策も破綻して八方塞・・・・・・、
そして倒産が確実、
という事態もきっと起こるだろう。

でも、絶対にあきめない……。
あきらめることだけはしない……。
いま胸に感じてるこの熱い気持ちを大事にして……、
戦っていこう。

そう呟いた僕は、
電車の心地よい振動にゆられながら、
ウトウトと眠りについた。






(後日談)

経営者育成セミナーに参加してから、5年の月日が流れた……。

あのあと、飲茶の会社はどうなったかと言うと……。

初年度こそ、何千万という大赤字を出して潰れかけたものの、
その後、回復。順調に黒字を重ね、
郊外のボロアパートに机を並べてはじめた飲茶の会社は、
今では東京都中央区のオフィス街に事務所を持つまでになった。

結論を言えば、成功したのである。

では、赤字から脱却して経営が成功したきっかけとは、なんだったのか。
思い返せば、
やはりそれはあの経営者育成セミナーの参加だったのだろう。






プルルルルルルルルルルルルルルルル





プルルルルルルルルルルルルルルルル





ん?誰だろう、電話だ……。

ああ、わかってる。
こんな時間に来るのだから、トラブルの電話に決まっている。

会社の規模が大きくなろうと、黒字になろうと、
世の中が不条理なのは変わらない。
経営なんてうんざりするほど、トラブルだらけだ。

こんなとき、僕は、胸に手を当てて確認してみる。

大丈夫だ……
あのとき、ともった炎が
まだ燃えている……。

僕は受話器を取り上げて応えた。



限度まで

(完)

この記事へのコメント
かっけー。

飲茶さんは
「こういう体験をしたことを元に
感動させる文章に起こせる」
タイプです。

それがどのような結果になる体験でも!
Posted by キムコウ at 2013年03月26日 18:02

かっこよすぎ

さすが勝負師。勝負するときが一番輝いてますよ
Posted by at 2013年03月26日 19:21

(・∀・)書籍化マダー?
Posted by at 2013年03月26日 22:43

長かったー
でも完結してよかったー

お疲れさまでした。
Posted by at 2013年03月27日 13:25

漫画になったらかっこよくなりそうな熱さですね。板垣さんか福本さんかハチワンダイバーの人が描いてくれないすかね
Posted by at 2013年03月27日 16:01

この物語、フクション or ノンフクション?
Posted by at 2013年03月30日 13:49

いやー面白かったです!
飲茶さんの書く文章はアツい!
完結お疲れ様でした&ありがとうございました!
Posted by   at 2013年03月30日 23:28

待ったかいがありました。こんな良質な物語を無料で読めるなんて最高です!

そしてわれらの飲茶さんはやってくれた。

さすが飲茶!おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこに シビれる!あこがれるゥ
という最高の賛辞を贈りたい!

飲茶さんは文章書くの本当にうまい

会社経営の顛末とか、ノンフィクション形式で
書いてもらえるとすごく面白そうです。

完結してくれて本当にありがとうございました。
Posted by 元デイトレーダーサラリーマン at 2013年06月02日 12:34

完結から数ヶ月も立ってしまいましたが、コメント

を残させていただきます。

いやあ、すごいですね。正直、かなりの感動もので

した。(私がおかしいのかな)

また、私(自称、哲学者)にとっては、とても

よみごたえのあるものでした。

それと、飲茶さんの書籍をいくつか購入し、よま

せていただきました。

"感謝"の一言です。
Posted by あっ君 at 2013年06月22日 17:59

一気に読ませていただきました。非常に面白かったです。福本さんに原作として売り込みに行ってもいいんじゃないでしょうか、真面目に。
Posted by ひなた at 2014年02月15日 19:41

かなり投稿から時間が空いていると思いますが、非常に面白かったのでコメント残させていただきます。

とにかく面白くて、続きが気になり一気に読ませていただき、この日記から飲茶さんの考える力と、文章・物語構成能力の高さにただただ凄さを感じました。

完結、またこのような素晴らしいものを見せていただきありがとうございます。

文章や展開からカイジを思い出しましたw
Posted by ざん at 2015年04月28日 10:35

非常に楽しく拝見させていただきました。

どういうことをやろうとも、どんなものになろうとも、”あきらめないこと”は大事なんだと改めて思いました。

いや、思い出した という表現の方が正しいでしょうか。今までの自分の経験とリンクさせて、熱い気持ちで読むことができました。

過去は変えられなくても、今は変えられる。
今は過去からできている。
そして、未来は今から作っていく。
Posted by 今を輝くニート at 2015年12月04日 21:44

こら糞飲茶!
おめー(4)では価格提示札が6桁なのに、最終回で提示した最高価格が99990なのはどうしてだよ!
999999が提示できたハズだろ!
終盤はフィクションだわコレ!
このペテン師め!

と思いました。
Posted by ゆうた at 2016年02月20日 18:53

>セミナー終了後、何人かの経営者から声をかけられ、
>「これから飲みに行きませんか?」と誘われたが、
>僕はそれらをすべて断り、まっすぐに家に帰ることにした。

人間関係が大事だとか悟ったつもりでいながら
結局何も学んでなくて草
Posted by 12654 at 2017年06月21日 04:40

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