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2013年03月22日

経営者育成セミナー参加日記(19)〜信頼〜


(以前の話はこちら

その後。
僕も価格破壊男も、良いところはひとつもなかった。

なけなしの現金を投資し「おまけカード」を買い集めても、
理不尽な低価格」によって潰され「笑いもの」にされる。
そういう状況がゲームの終わりまで続いたのだ。

つまるところ、僕は経営者として最も大事なことを
わかっていなかったのである。
そもそも、僕は、

・「相手の心理」を的確に読み取り、裏をかき、
 「人間同士の心理戦(価格競争)」に勝利して儲ける。

・「ルールの隙(法の抜け道)」をついて儲ける。

・「自制心」を保ち、適切な投資を行い、儲ける。

というのが、この経営戦略ゲームの「本質」であり、
同時にそれが「経営」の「本質」であると思っていた。

だが、この経営戦略ゲームには、それ以外の「本質」、
真の本質」が隠されていた。
それは、「経営で勝つため」に本当に必要なのは、
業界内での「信頼」であり、「人間関係」であり、
人脈」であり、「コネ」だということ。
それこそが経営の「真の本質」であり、それに気づかせることが
実はこのセミナーの「裏テーマ」だったのである。

経営とは、他者と自分の生き残りを賭けた戦い。いわば戦争

これはセミナー開始当初の僕の考えであるが、
今にして思えば、なんと幼稚な考えだったのだろう。
仮にそれが真理だったとしても、
それをあからさまに態度に出して経営していたら……、
他者から嫌われ、総すかん。ことあるごとに足をひっぱられ、
何かうまい話があっても仲間にも入れてもらえない。

当然の理屈。そんな当たり前のことにさえ
僕は気づいてもいなかった。

本物の経営者であれば、
「自分の利益を優先させること」を本音として隠しつつ、
「業界全体のため」とか、「市場の発展のため」とか、
「ユーザのため」とか、そういう態度を示し、
地道にみんなの信頼、すなわち「社会的評価」を得ることを
目指すべきだったのだ。
そうして、すこしずつ、
協力しあえる、味方、仲間を
業界内につくっていくのが正しい姿だったのだ。

それなのに……!

それを僕は画一的に「自分以外は敵」などと思い込み、
信頼関係や人脈を築くこともなく、「ルールの隙」ばかりついて、
自分だけ儲けよう!
自分が!自分が!

とやってきた。

なんという痩せた考え。

ふと見上げると、価格破壊男がしょんぼりとしていた……。
さすがに彼も、自分の置かれている状況、
――軽んじられ、弄ばれている状況――に気がついたのだろう……。
だが、気がついたところで、もはや手遅れ。
今さらもうどうしようもない。

結局、僕たちは、うなだれ続けるしかなく、
そのまま時間だけが無情に過ぎて行き……、
とうとう、セミナー終了の時間となってしまった。

はい、みなさん、お疲れ様でした。
 では、今のこの年で最後にしたいと思います


講師の終了宣言に、みんなは
「あー、もう終わりかー」
「いやー、面白かったなー」
などの感慨深げな声を口々にもらした。
すでに「勝ち組」と「負け組」の経営者の間で
十分に大差がついており、逆転の可能性は皆無であったから、
ゲーム終了の宣言にあわてる者は誰もなく、
消火試合的な和やかなムードで淡々としたプレイが続けられた。

そのとき僕は、みんなのプレイをぼんやり眺めながら
ある「真理」を悟っていた。

そうか……そういうことか……。そういうことなんだ……

それは結局のところ、勝ったのは、

社交的で、明るく、
 ゲームの合間に、みんなを笑わせる冗談を言ったり、
 雑談が上手な経営者


であり、逆に、負けたのは

勉強はできそうだが、黙々と仕事をやるのが好きそうで、
 社交的ではない、無口な経営者


であったということ。

こんなにもはっきりと分かれるものなんだ……

勝った側の経営者たちは総じて、
明るくて、堂々としていて、会話が楽しくて、
女の子にもモテそうで、彼女がいなかった時期などなさそうな、
そんな「人間的に最初から勝ってるオーラ」を
かもし出している連中ばかりだった。

一方、負けた側の経営者たちは総じて、その逆。
逆の雰囲気。逆のオーラ。
真面目そうだが、ぱっとしない。
もし、彼らだけ集めて、グループ名、ユニット名をつけるとしたら、
もっとも適切な名称は「部長どまり」。
そんな感じの連中ばかりであった。

はたして、自分は……、
勝ち組側の人間になれるだろうか……。

いや、無理だ……絶対に、間違いなく無理だ……

まずそもそも自分は、けっして社交的な人間ではない。
アドリブもきかず、初対面の人に話しかけられても、
きょどって見当違いなことを言ったり、
笑わそうと変にテンションをあげたあげく、
すべって場をしらけさせてしまう(そして後で自己嫌悪)、
そんなキャラクターである。

だから、初対面の経営者同士が集まって
談笑しながら人脈を作る懇親会なんて、絶対無理。
行くこと自体がストレスで、前の日から憂鬱になるタイプ。
そんなことより細かい作業を黙々とやったり、
一人で理屈をこねている方が好きなタイプ。

すなわち、明らかに後者の人間。
勝てない人間。
これはもう努力うんぬんの問題ではなく、
人間的な質、個性、生まれつきの問題であろう。

結局、つまるところ、この経営戦略セミナーを主催した人が
一番伝えたかったこととは、

そんな後者タイプのおまえが
お喋りが上手で、社交的で、
明るく、お洒落で、清潔で、
ピッとしたスーツが似合う、リア充の彼らに
「張り合おう」とか「勝とう」とか
思うこと自体が誤り

ということだったのだ。


でも……それでも……


僕は……


そして、ついに最後のターンがやってきた……。

では、飲茶さんの番です



勝ちたい……



やつらに勝ちたい……



うぅぅぅぅううぅぅっぅぅううううっっ………(ボロボロ)

飲茶さん?

口元をおさえて嗚咽に震える僕をみて、いぶかしむ講師。

僕は、震える喉から無理やり空気を吐き出し、最後の経営戦略を述べた。

商品を……売りに……出します

はい、何個ですか?

ぜんぶ……

え?

倉庫にある商品を全部!

耐え忍んできた様々な感情があふれ出しそうになっていた。
僕はこのときをずっと待っていたのだ。

僕はシートの下に隠しておいたカードをばさっと場に放り出した。
それは毎年、少しずつ、少しずつ、
買いためていた宣伝広告カード

すべて演技だった。

ため息をつきながら、投げやりにゲームに参加し、
適当に競売に参加しては、いじめられ、負けて、
そしてふて腐れながら、おまけカードを買ってみたり、
宣伝広告カードを買ってみたり……。
だが、そうして顔を伏せながらも、
宣伝広告カードだけは使わずにためていたのだ。

宣伝広告カードを使って、倉庫の商品を全部市場に出します

こうして、倉庫にあった大量の商品が一気に市場へ投入され、
日本各地にばらまかれた。北海道から九州まで、
広告カードの力を使って、全国に一度に流通させたのだ。

そこで、やっとみなが気がついた。

「今」、この瞬間とは、最後の最後、
ゲーム終了の最後の土壇場のターンであることを。

そう、来年は存在しない。ゲームは今年で終了。
だから、来年のために、材料を買って商品を作る、
という行為を誰もしなくなる。

したがって、ゲーム終了間近は、在庫が少なくなるに違いない

その気づき。
最後の最後のターンに、それが起こるかもしれないという可能性。
それに、僕は賭けたのだ。

まだ、在庫を持っているメンバーが、あわてて、競合商品を出してくる。

Aさんは、大阪に。Bさんは、東京に。

だが、ゲーム終盤のため、在庫が足りず、
すべての地区に競合商品を出すことができなかった。

そのため、
北海道や青森などの地区(小需要で、少ししか商品を置けない地区)
では、競合相手がいない、という状況が発生。

場は、騒然とした。講師ですら予想外のことで、驚いていた。

この地区とこの地区は、
 競合相手がいないから、上限まで価格をつけてもいいんですよね?


は、はい。かまいません

じゃあ、オープンプライス!

もちろん、僕が掲げた金額は、表示可能な最大金額。

99990円!

ついに成し遂げる!
独占販売による最大金額の提示!
その金額の大きさに、みなが驚きの声をあげた。



だが……!

駄目ッ!!

これでは駄目ッ……!
駄目なのだ!

まだ僕には、やらなければいけないことがある!

ここで終わってはいけない!
これで終わらしてはいけない!

だが、はたして……

はたして彼は気づいてくれるだろうか……。

では、次は九州地区で

僕は、自分から次に競売を行う地区を指名した。

そこには、競合相手として、あの「価格破壊男」がいた。

あとは、もう……価格破壊男しだいであった……。

僕は祈るような視線を価格破壊男に送った。

頼む!価格破壊男、
気づいてくれ……気づいてくれ……!

(次回完結)


この記事へのコメント
久々!!!

そしておもしろいwww

流石の文章力ですね。
次回楽しみです。
Posted by キムコウ at 2013年03月23日 12:11

すごくおもしろい!!
Posted by あーー at 2013年03月23日 13:30

面白いです!
続きが楽しみ!
Posted by at 2013年03月23日 17:06

これ書籍化できるのでは?
というくらい面白いです!
Posted by yojiyoji0 at 2013年03月24日 23:38

待ってました。相変わらず面白いですね。

そういえば経営の方は順調でしょうか。
最近そっちの話題がないもので・・・
Posted by at 2013年03月25日 01:10

面白いです  
次回期待してます
Posted by 774 at 2013年03月25日 20:32

アメリカではギーク(オタク)が将来の上司になるという話があると聞きましたが、日本では技術者よりも社交家の方がまだまだ有利みたいですね。
Posted by at 2013年04月21日 17:36

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