飲茶の新刊「14歳からの哲学入門」発売中!

2012年05月21日

経営者育成セミナー参加日記(18)〜制裁〜


経営者による経営者イジメ!!

うぅぅぅぅ、なぜだ、なぜこいつらは……。

まったくの意味不明。
なぜ、彼らは初対面の僕に対して悪意を持ち、
理不尽な価格競争をしかけてくるのか……。

だが、突如、僕はすべてを理解した。

理解のきっかけは、例の「価格破壊男」だった。
彼も、僕と「同じ目」にあっていたのだ。

うわあああ、せっかくカードを
 たくさんためたのにー!


その言葉に、どっと場が沸く。

そうか……そういうことか……。

「僕」と「価格破壊男」には、ひとつの共通点がある。
それは、このゲームの空気を乱したことだ。

僕は、ゲーム開始早々、材料買占めにより、場を混乱させた。
そして、価格破壊男は、原価割れの金額を幾度も提示して
価格破壊時代のきっかけを作った。

だからつまり、これは制裁なのだ……。
「場を乱す異端者」を除外するという
「当たり前」の基本的な社会のルール。
それが、このイジメ行為の正体だったのである。

いや、でも、それにしたって……

そう。こんなふうに、
みんながみんな示しあわせたようにターゲットを固定化して、
突然イジメを始めるなんてことがありえるだろうか。
「あいつむかつくから、ちょっとからかってやろうぜ」的な話し合いが
裏でされていたならともかく、
いきなり自然発生的にこの状況が生じたとはどうしても思えない。

――などと思索しながら、ぼんやりと競売を眺めていた僕は、
あっ、と声をあげそうになった。
ゲームの場にいくつかの「仲良しグループ」が
できあがっていることに気がついたのだ。

もちろん、そいつらは談合のようなあからさまなことをするわけではない。
だが……、
「僕の邪魔はしないでね」
「うん、そのかわり、僕のときに邪魔しないでね」
的な暗黙の了解、すなわち
グループの仲間同士では価格競争をしかけない
という相互不可侵の関係が
出来上がっているのが明らかにみてとれた。

いったい、いつの間に、そんな関係ができたのだろう。
最初から、互いに知り合いだったのだろうか……。

あ……。

あああああああああああああああ!!

そのとき僕は、ようやく
自分が犯した「致命的なミス」に気がついた。
そういえば、講師はお昼休みのまえ、こんなことを言っていた。

お昼休みは、少し長めにとって、1時間30分とします

お昼休みは、少し長めにとって……

少し長めにとって……

ぐぅぅうううううううううううう!
なぜ気がつかなかったのだろう。
講師がなぜわざわざ「少し長めにとって」と言ったのか、
なぜその意味を考えようとしなかったのだろう。

あれはようするに、「お昼休みを長くしてあげるから、
この時間を利用して、一緒に昼食をとるなりして、
人間関係を作ってきなさい」というヒントだったのだ。

僕は、このゲームの本質を完全に見誤っていた。

この経営ゲームで「勝つこと」を考えた場合、
もっとも重要なのは
「損益分岐点を把握すること」でも、
「予算計画を立ててそのとおりに遂行すること」でもない。
本当に大事なのは、「人間関係を構築すること」だ。
だって、それが一番、勝利に近づく行動ではないか。

つまるところ、このゲームは「人間同士」の「戦い」であり、
「競争」であり、「足の引っ張り合い」である。

だが、たとえば、一緒に食事をしたり談笑したりして、
それなりの人間関係ができてしまえば……、
あからさまに相手の足を引っ張ることはできなくなるだろう。
人情的に言えば、仲間以外の人間の足を引っ張るようになるはずだ。

仲間がいることのメリットはそれだけじゃない。
仲間がいる人には、他の人も「邪魔」がしにくい。
なぜなら「あからさまな嫌がらせ、邪魔」をして不評を買えば、
今度は自分がそのグループのメンバーからターゲットにされて
報復される可能性があるからだ。
グループに所属している経営者に対して、
あからさまな「邪魔」をするのは明らかにリスクが大きい。

一方、グループに所属していない個人経営者なら
どんな「邪魔」や「嫌がらせ」をしたってかまわない。
所詮は個人の力。報復されたってたかが知れている。

この時点で、もはや仲間がひとりもいない経営者の
勝ち目はない。
損益分岐点をどう計算しようが、
どんな素晴らしい予算計画を立てようが、
グループ会社VS個人商店」という構図で、
勝てるはずがないのだ。

そして、そのグループ会社を作り出す、
もしくは、グループ会社に参加する唯一の機会が、
昼休み」だったのである。

だから、みんな席を立ち、食事に向かい、たっぷりと時間をかけて
談笑し、「人間関係、人脈、コネ」を構築してきた。

なのに……、なのに……、自分ときたら……、
彼らがそうしている間、
ひとりで……、
あぐぐぐぐぅうぅぅ……
「ひとりで本を読んでいた」のだ!
渡された新ルールの説明書に夢中になり、
どこかルールに穴はないか
どんなふうにカードを使えば、
 他人を出し抜いて儲けられるか

とか、そんなことばかりを考えていたのだ!

浅い……なんて浅い人間なんだろう!

うわああ、またカードがーーー!

場では、価格破壊男が、またしてもおまけカードを買い集めて
価格競争に挑み、またしても低価格を提示されて負けていた。

彼は、悲鳴をあげ、机に突っ伏し、
それをみて、みんなは声を上げて笑った。

僕は、価格破壊男に怒りを感じた。

バカ!バカ!バカ!気づけ!気づけよ!
お前は、みんなからオモチャにされているんだぞ!
あと、やめろよ!そのリアクション!
そうやって、リアクションをとるから、
みんなが笑い、それが面白いから、
またおまえをイジメるんだ。
それに気づけ、気づけ……
うぅぅぅぅぅぅ……
気づいてくれよぉ……(ぼろぼろ)

だが本質的なところで、僕は価格破壊男を責めることはできなかった。
自分だって気づいていなかったからだ。

自分の会社だけ儲かればいい、他の会社なんて全滅してしまえばいいんだ
というのが僕の本音であり、
僕はその本音のとおり行動して「買占め」という選択をしたが、
それにより「業界」から総すかんをくらってしまった状態であった。
にもかかわらず、自分は、そんなことに気づかず、
みんなと同じ対等な「参加者のひとり」として、
せっせと投資して「おまけカード」を買い集めていたのだ。
自分の勝利を想像してニヤニヤとしたバカ面を晒しながら。

完全なKY。なんて空気が読めない人間なのだろう。
他人の表情や動きには敏感なくせに、
自分自身が他人からどう思われてるかなんて、
想像したこともなかったという愚かしさ。


今なら、「昼休み」に皆がどんな談笑をしていたか、だいたい想像がつく。
彼が『価格破壊男』なら……
僕は『材料買占男』……。

『あいつらってちょっと変わってるよな』

初対面同士の皆が、盛り上がれる共通の話題として、
僕たちはかっこうのネタであっただろう。

ともかく、ここにきてはっきりとしたことは、
僕の勝ちが100%なくなったということだ。

もうここまできたら、皆は、僕と価格破壊男に徹底的に意地悪をし、
最後まで「笑いのネタ」にして楽しむだろう。
実際、「僕たちに意地悪をしてそれを笑いにして面白がる」
という空気(群集心理)がすでに出来上がってしまっていた。
こうした空気がある以上、どんなに「おまけカード」を集めても、
絶対に潰されるに決まってる。かといって、いまさら「研究開発カード」を
集めるのも手遅れ。なにより現金の余力がない。つまり、八方ふさがり。

駄目だ……。絶対に勝てない……。

こうして何も打つ手がないまま……、時間だけが流れ去り……、
ついには僕たち以外の参加者全員が
「研究開発カード」を何枚も持ちはじめた。

もはやどうあがいても、
僕たちが価格競争で勝てる要素はなかった。
まるで、少年漫画で言うところの、
「戦闘力のインフレについていけなかった脇役キャラ」のように
「レベルの違う価格競争バトル」を
僕たちはただ指をくわえてみていることしかできなくなっていた。

僕は、もう……
うなだれるしかなかった……。


この記事へのコメント
うわっ! かわいそう。
でもよく考えたらわたしは苛めたほうだった。

ごめん。飲茶さんだったかもしれない人よ。
Posted by 汁茶 at 2012年05月22日 17:03

面白いね。

でもそれに気づけただけでも収穫だったね。
Posted by サンテ at 2012年05月23日 19:53

数年ぶりに来てみたら、更新されてた。

相変わらず面白いですね。
続きも気長に待ってます。
慌てずゆっくり、飲茶さんのペースで連載してください。
Posted by onigiri at 2012年05月26日 00:00

経営者育成セミナー長い間お待ちしておりました。

しかしかわいそうな子だ。にやにや
Posted by at 2012年05月27日 00:21

「戦闘力のインフレについていけなかった脇役キャラ」って、
ドラゴンボールで言えばまさにヤムチャ…笑

飲茶さん、続きの執筆も首を長くして待っています!!
Posted by はるかぜ at 2012年05月31日 22:24

おもしろいです!
Posted by のののの at 2012年06月08日 01:19

哲学的な〜〜の本二冊とも持ってますよー!で今このブログ発見。本のあたりを昼から一通り読破してwikiってそしたらこの経営セミナーブログにたどり着いて、いやー面白いですね。さすがです。更新がどうやら数年サイトのようですが笑、楽しみにしてまーす!
Posted by のののの at 2012年06月08日 01:25

大学のレポートの参考にちょっと寄らせていただきましたが、面白いですww とっても参考になりました!
Posted by 金欠少年 at 2012年06月10日 11:10

大変興味深いです。
面白い内容ですね。
自らの体験をアウトプットするのは良いことですね。
Posted by at 2012年07月24日 10:51

27歳で会社員のものです。本は全く読まないのですが、今週のバキとゆーサイトから、最強の哲学入門を知り、図書館へ行ったらあったので予約して読みました。とても読みやすく、ニーチェの超人思想と、さらに今の日本人に対するメッセージと書かれていた内容に感銘をうけました。必死に頑張る気持ちの支えが生まれました。 仏教や科学、数学に興味があったのもありその後すぐ三冊を買いました。本の楽しさは作者の質によって決まると感じました。因みに、飲茶先生が好きな池田晶子氏の本も読み始めましたが、今のところ文にスマートが感じられず、論点を掬い出すことに苦労してます。

飲茶先生が書かれた数学編は、藤原先生が言われていたワイルズのちょっと違うとこがあるように感じましたが、初めて寝る間を削って本を読みきる体験をしました。
また、科学編、東洋編は、脳のメカニズム解説に対して、理解できず、読み返しても、最初の方から納得できておらず不完全燃焼のままで悔しいです。
脳は体外のセンサへ電気信号が入り、それを様々な動きや感情や表現で出力するものなら、赤というものをアウトプットできて当たり前なのではないのでしょうか。それと脳内のイメージに関しては、視覚障害者でも扁桃体で人の笑顔を感じることができる実験結果があるので、原理的に何故、赤について理解しきれないかわかりません。
この本で言いたいことの、前提となる読者との意識のすり合わせが目的である重要な部分なので、よろしければ是非、私の何が解釈違いなのか教えて頂きたいです。

一番最初に読んだ、史上最強の哲学入門も今注文していて、親にも読んでもらうつもりです。注文時にタイトルを言うのが、恥ずかしかったですが、鷲田氏の哲学入門書のような数冊を目にしても、投げ掛けられてくるメッセージには引き込まれる要素が見つかりづらかったので、更に飲茶先生に、分かりやすくてメッセージ性のある本を書いていって欲しいと感じています。
Posted by 風 at 2012年08月13日 00:32

気に入って頂けてありがとうございます。
クオリアのところがよく理解できなかった、とのことですが……、すみません、あれで最大限の説明なので、あれで伝わらなければ僕の力量ではちょっと難しいです。汗

Posted by 飲茶 at 2012年08月13日 01:17

この研修の記録、再開してくれてたんですね。
何度かwebメッセージで催促させて頂いていた者です。

続きがほんとうに楽しみです。
株の所とか、もっと色々書いて欲しい 読みたい
Posted by にしひ at 2012年08月15日 01:23

コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/270863933
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック