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2012年04月06日

経営者育成セミナー参加日記(15)〜分岐点〜


講師は、再び講義を始めた。

今度の講義は、損益分岐点についてだった。

その内容は、簡単に言うと、
『仕入れ』『加工費』『借金の利息』など、
 かかったすべての費用を総合的に判断して、
『いくらで売れば、会社が損しないか』の基準
(損益の分岐点)を、
 ちゃんと明確にしないと駄目ですよ

というものだった。

講師は、みなにしばらく時間を与えて、
自分の会社の損益分岐点がいくらかを計算させた。
そして実際に計算をしてみると、それは予想以上に
高い金額であった。

講師は述べた。

いいですか。損益分岐点をきちんと把握して、
 損益分岐点以上の金額で売るように心がけてください。
 そうしないと、会社は確実に損をしていきます


こうして改めてきくと、
なんて「当たり前」の教えなのだろうか。
もしかしたら、この日記を読む人の中には、
そんなの基礎中の基礎だろ(笑)
 わざわざ教えられるまでもないよ(笑)

と笑う人もいるかもしれない。
だが、そんなのは「」から冷静に思い返すから
言えることである。

そもそも、このセミナーの参加者で「損益分岐点」という
用語を知らない人は、誰ひとりとしていなかっただろう。
「知識」としては全員が知っていたのだ。
だが、実際には、「市場」や「価格競争」の雰囲気に流され、
「損益分岐点」を忘れて「目の前の現金獲得」に夢中になる人が
何人も現れた。

「知識」として知っていても「その場」で活かせない。
人間とはそういうものではないだろうか。

もし、それでも、このセミナーの参加者を笑う人がいたら、
こう問いたい。
あなたは、他人との会話で、雰囲気に流されて、
つい言ってしまった
という経験が一度でもなかったのか、と。

たとえば、
「人を傷つけるようなことを言っても得はないよ」
という「知識」は誰でも知っていることである。
そんなの「当たり前」のこととして誰もが了解している。
しかし、実際には、ほんの些細なことでイラっとして
「他人を傷つけるようなこと」を言ってしまったり……、
なんとか周囲を笑わせようとつい調子にのって
「他人をバカにするようなこと」を言ってしまったり……、
「後から考えれば、言うべきではなかったこと」を
ついつい言ってしまう。
人間なら誰だって経験したことがあるのではないだろうか。

そして、講師はまさにそのことを語った。
「市場の雰囲気」「借金のプレッシャー」
「体調」はては「その日の天気」まで、

人間とは、そういった外部要因であっさりと「決断」が
左右されてしまうか弱い存在であると。
また特に「市場の相場」は、
群集心理」というものに流されやすい、のだと。

たいてい、誰もが自分は「群集」ではないと考えたがる。
仮に「群集心理に流されて愚かなことをした人々」の記事を読めば、
きっと多くの人が、それを嘲笑い「自分はそうじゃない」と考えるだろう。
だが、現実は、そう考えている人ほど、
未経験の現場に放り出され、追い詰められれば、
あっさりと群集の1人になり、後から思い出すと、
ぞっとするようなことをしてしまう。

もちろん、それも人間のひとつの本質であるのだから、
仕方の無いところではある。

だが、経営者はそれではいけない。

なぜなら、経営者の判断には、自分だけではなく、
社員、そしてその家族といった大勢の人の命運が含まれているからだ。

だからこそ、その場のノリや雰囲気に流されたり、いい加減に
ましてや相場の雰囲気や、群集心理に流されて、
決断をしてはいけないのだ。

が、そうは言っても、経営がうまく行かず、追い込まれた人間は、
簡単に基礎を忘れ、後から考えると明らかにおかしな
異常な決断をしてしまう。

それゆえ、私たちはこういうのです。
 書きなさい、書くんだよ、と。
 『損益分岐点』という基準を計算し、明確にし、
 数字として書きとめなさい、と


なるほど。僕は講師の言葉に納得した。
実際に数字として書きとめておけば自制がきくし、
雰囲気や他の人の価格に流されて、
自分を見失うようなことは軽減されるだろう。

だが……と僕は、このとき思っていた。
たしかに、良いタイミングで、損益分岐点の説明をしたと思う。
これでさすがに「原価割れの価格破壊」という馬鹿な流れは
止まるかもしれない。
だが、本質的には何も解決していないではないか。
だって、今までは「原価ギリギリ」のところで
価格競争していたのが、
今度は「損益分岐点ギリギリ」のところで価格競争をするように
変わるだけのことである。
なら結局、薄利の戦いが、続くことには変わりはないのではないか。

だが、そこで講師は、まったく予想していなかった台詞を述べた。

では、次の年から、投資カードを追加します。
 次は、みなさんに『投資』というものを
 学んでいただきたいと思います


ざわ……ざわ……

え、なにそれ?
ここにきて、新ルール追加だって!?


この記事へのコメント
こんにちは。哲学ガールズ小説企画に参加させていただきました汁茶と申します。
どうもお世話になりました。分不相応な掌編賞なるものを戴き恐縮しております。
久しぶりに見てみたら何やら面白そうなお話。

これは何年前の話でしょう?
私も似たセミナーでこういうゲームをやったことがあります。
過去の記事を見ると自分が参加したのとほとんど同じ。

ここから先は確か……
他のプレイヤーに対して投資をすることができる。
投資資金は講師から皆に平等に渡される。
投資された資金はそのプレイヤーが経営資金として使える。
自分に投資はできない。
決算時の投資先の成績に応じて配当金がもらえる。
優秀と目されているプレイヤーほど資金を集めやすい。
市場においてその会社がどの程度に見られているかの格付けがなされる。
……だったかな。

ダンピング競争が起きた時、談合したいって何度思ったことか。工場増設などの設備投資もろくにせず、細々と身の丈にあった経営していたプレイヤーが結果的に好成績でした。
私? とりあえず自分の利益確保して、売る気が無いのに市場に参加したりしていた方ですね。投資はいくらか集めました。
市場の動向を見誤って拡大生産にはしり、供給過剰に陥って、終盤失速して投資してくれた方の期待を大きく裏切りました。

材料買い占め笑いました。法の抜け穴探すようにゲームの必勝法考えてた人がいたっけ……もしかして飲茶さんだった?
Posted by 汁茶 at 2012年04月07日 12:47

もしかしたら、それは本当に飲茶だったのかもしれません!
(都市伝説な煽り方で)

やっぱり普通に経営ゲームのセミナーあるんですよね。

ちなみに、僕のときは、プレイヤー同士の投資はありませんでした。
もっとシンプルでした。

Posted by 飲茶 at 2012年04月09日 20:50

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