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2009年09月17日

経営者育成セミナー参加日記(14)〜今〜


講師「では、オープンプライス」

A「5100円」
B「5200円」
C「5100円」
D「4500円」

A&B&C「えええええ!4500円!?


ついにきた原価割れ
原価5000円の商品を4500円で売った男が登場!
僕は、今でもこのDさんの顔を……忘れることができない。
彼のことは、以後「価格破壊男」と呼ぼう。

基本的にこのセミナーの参加者たちは、
みなそれなりの年齢で、おそらく、 それなりの会社の重役たちである。
だが、この「破壊価格男」は、
年齢も若く服装も言葉づかいも幼く、
(まるで僕のように)浮いた存在で、
そのなんというか、ほっぺに渦巻きが書いてあって、
「キャハ」と笑うのが似合いそうな、 そんな感じのキャラクターの人だった。

その価格破格男が、 次々と商品の在庫を市場に投入しては、
容赦なく原価割れの値段で商品を売っていく!

そして、それをきっかけに驚くべき事態が……。

講師「では、オープンプライス」

A「4600円!」
B「4400円!」
C「4800円!」
D「4500円!」

なんと市場の相場が価格破壊男に引っ張られたのだ!

とうとう原価割れの価格競争に突入!
ありえない! 通常ならありえない暴挙!
原価割れで商品を売っても、何にもならないどころか、
売れば売るほど、損をするだけなのに!

もしかしたら、この話を聞いてあなた(日記の読者)は、
「参加者全員、バカなんじゃないの(笑)」
と疑うかもしれない。

いや……そんなことはない。
間違いなく集まった人間は、
それぞれがそれなりに優秀な人物……。
会社でいうところの課長、部長以上のクラス……。
決して、計算できない人間ではないし、
バカな人間たちではない。

だが、なんというのだろう……。そのとき、
このゲームを体験した人にしかわからない、
異様な空気が場を支配していたのだ。
その正体はおそらく、
年末になったら、莫大な借金の利息を支払わなければならない
というプレッシャー。
それが、少しでもキャッシュ(現金)を
手元に残しておきたいという強い焦りを
生み出していたのだと思う。

だって、もし年末の時点で、借金の利息が払えなかったら……、
強制的に借金追加。
さらに高い利息を支払うことになってしまうのだ。
だから、年末の決算のときに、
現金がマイナスになるのは非常にまずい!!


そういう心理が働いたのか、どの経営者も年末が近づくにつれ、
手持ちのキャッシュを一時的にでも増やそうと、
原価割れの値段でもいいから在庫を売る……、
という本来ならあり得ない流れが生まれていたのである。

もっとも、原価割れの値段をつけることに、
みんな最初は抵抗感があっただろう。
「いくらなんでも原価割れはさすがに……」という話だ。
だが、そこへ価格破壊男があっさりと
原価割れの値段を提示してしまった。
その結果、心理的抵抗は決壊!
キャッシュを求めて我先に原価割れで
在庫を処分しようとする経営者が続出するという
異常事態が発生したのである。

そして、決算……。

当然、みんな赤字!
経営ゲーム、参加者全員が
赤字になるという体たらく!

そして、重苦しい空気の中、次の年がはじまる。

もちろん状況はまったく変わらない。

だって前年度の低価格が、みんなの記憶に強く残っているのだ。
どうして、7000円や6000円の価格がつけられるだろう。
前年の価格競争を引きずるように、
原価ぎりぎりの金額からスタート。
材料を仕入れ、商品に加工しても、商品はなかなか売れず、
売れても薄利でまったく儲からない……。
そして、お決まりのパターンのように、
年末には、バタバタと原価割れの価格競争……。

結局、どうしたって、儲からない。
経営者の誰もが、行き詰まりを感じていた。

だけど、もしかしたら……、これは何の予備知識も持たず、
はじめてこのゲームをやったときに
必ず起こる定番の展開なのかもしれない。
だって、講師は、あいかわらず、
ニコニコしていたから……。

さぁ、ここで、はっきりと結論を言ってしまおう。

この価格破壊時期に、
商品を売っていた人が「負け組み」であり、
何もしなかった人が「勝ち組」である。

「負け組み」の経営者たちは、
価格競争の雰囲気に飲み込まれ、
とにかく自分の商品を売ることだけに熱中し、
積極的に材料を仕入れて商品を作っては
それを売ってなんとかお金を稼ごうとがんばっていた。
もちろん、価格競争が厳しくて商品はなかなか売れない。
結局、彼らは年度末が近づくと、手持ちの現金を増やすため、
あわてて原価割れで商品を売るはめになる。

一方……。何もしなかった側……、
「勝ち組み」の経営者は、
そんなバカげた価格競争を
冷静に観察しているように見えた。

もちろん、彼ら「勝ち組み」も商品を売りに出すのだが、
それは、あくまでも 独占を阻止するためだけに出しているだけで、
決して原価割れで商品を売ったりなんかはしなかった。
いや、彼らも、ときどき原価割れの安い価格を 提示することはある。
だが、それはなんというか、本気で売ろうとしていない、
そんな感じなのだ。
むしろ、相手が出すであろう金額を予想し、
売れないように相手よりその少し高い金額を提示する
といった感じ。
つまり、はなから原価割れで商品を売るつもりはなく、
安い金額をつける競争相手を演じているだけ。
すなわち「相手に商品を安く売らせる」ための競売参加……。

うぅうううぅ……。

僕は、幸運にもそのとき、
この価格競争に参加していなかった。
だから冷静に状況を把握することができた。
こうして、はたからみればよくわかる。

勝ち組の連中は、最初から相手に負ける値段をつけて
「あー、負けちゃった」
とわざとらしい残念そうな笑顔を浮かべ、
その一方で負け組の人たちは……、
売っても損するだけなのに……、
安い値段で売らされているだけなのに……、
それに気づくこともなく、
やったやった!と喜んでいるのである。

ぐぐぅぅうううううぅぅうううぅっぅうぅぅ!

な、なんだろう。この、気持ちは!
胸にこみあげてくる感情は!

本来なら、勝ち組の人たちの行動を
模範として見習うべきなのに……、
なぜだろう「裏表のない無邪気な負け組の人たち」の方に
強い親近感を持ってしまう。
この感情はいったい何なのだろう?

ともかく。

ここにきて、はっきりしたことは、
参加者同士の中で「経営者としての格付け」が
完全に決まったということである。

「バカな経営者」と「バカじゃない経営者」。
「目の前の現金獲得に必死な経営者」と
「長期的な損得を勘定できる経営者」。
「この状況をなんとか打破しようと、今までどおり
一生懸命、商品を売って儲けようとする経営者」と、
「そういった人を冷たく侮蔑の視線で眺めながら、
『自分の損失を抑え、相手に損をさせる』という戦略に
すばやく思考をシフトさせた経営者」。

経営戦略ゲームの参加者は、この2種類に
真っ二つに分かれたのである。

では、もし、自分が普通にゲームに参加していたら……
果たしてどっち側になっていただろうか。

もちろん、こうやってこの「日記」のように
過去」として冷静に振り返えるなら、
負け組の行動なんて絶対あり得ない
自分ならそんなことはしない
そいつらはよっぽど馬鹿なんじゃないのか
と僕だって誰だって簡単に言うことができる。
でもだ。株式投資しかり。パチンコしかり。麻雀しかり。
冷静に判断できるのは、いつも「損した後」ではないか。
いや、ギャンブルなどの話だけではない。
人生全般がそうではないだろうか?

たとえば、初対面の人たちがたくさん集まる場での自己紹介。
たとえば、人生の進路を決める大事な面接での受け答え。
たとえば、取引先の偉い人への報告やプレゼン。

たいてい、人間は、
そういう緊張やプレッシャーの中で行動するとき、
冷静でクレバーな判断を「リアルタイム」にすることは
そうそうできない。
実際、こういった状況において、人は、
うぅ、なんであのとき、あんなこと言ったんだろう」と
」から考えれば、「絶対しない」ような言動を
してしまいがちではないだろうか。

だから、「過去」という視点で、
自分ならそんな間違い、絶対にしないよ」といったところで、
意味はないのである。

きっと、おそらく「負け組み」の経営者たちも、
本来は優秀な人たちであるだろうから、
そのうち自分の過ちに気づくに違いない。
それは、1時間後かもしれないし、30分後かもしれない。
でも、それじゃあダメ!
「後」から気づくのではダメなのだ!
「今」!
「今」、気づかなければダメなのだ!

その意味では、僕は、負け組の方……。
緊張やプレッシャーに弱く、すぐにカーッとなって、
目先のことに夢中になり、
」で考えたら「なんで?」と思うような行動をとって
失敗をしたり、損をしたりして、自己嫌悪に陥るタイプ。

「今」に気づけないタイプ。

勝ち組の経営者になる条件が
「今」に気づける人間であるというのだとしたら……、
だめだ……まったく自信がない……。
どちらかといえば、
勝ち組の連中の嘲笑にも気づかず、
無我夢中で損をし続けるタイプ……。

あぐぅぅうううううぅぅぅ!(ボロボロ)
そんな自分に
はたして経営者になる資格などあるのだろうか!

そんなふうに悩んでる間にも、何年かの時が過ぎ……、
負け組の経営者たちが、無駄に商品を売って損失を出し続け、
取り返しのつかないほど、体力を失ってきたころ……。

講師が動いた。

くくくくくくくく。
 そろそろ、気づくものと、
 気づかぬものに分かれたようですね


僕は、その講師の冷たい言葉と
それを聞いて「にやり」と笑った 「気づいている側」の経営者たちの
冷たい表情に背筋が凍りついた。

一方の気づかぬ経営者たちは、まだわかっていないらしく、
頭に「?」をつけたまま、ぽかんとしていた。

そして、再び、講師の授業が始まった……。


この記事へのコメント
無理をしてでもシェアを保っていきたいときもあるんじゃないかな。
たとえば、この間の原油価格の高騰のときなんかは
GS激戦区のGSは原価割れに近い価格で売っていた。
しかもそのやりかたは、看板にレギュラー○○円と書いておいて、表では対抗店と看板価格で勝負しておいて
裏ではレシートに書かれた値段は看板より低い、という
ものすごく卑怯じみた戦法だった。

そうでもしないと、「このGSはダメだ」ということになってしまい、客が寄らなくなってしまうから。
(GS激戦区なのでほかにいくらでもGSはある)
そうしたら結局はつぶれてしまう。
Posted by at 2009年09月17日 06:57

おもしろい。
いろいろありますが、この一言です。
Posted by キムコウ at 2009年09月17日 08:11

なるほど、売らない我慢で競争相手を蹴落とす。

しかし、現実の世界では、
安売りを続けて、シェアを拡大しスケールメリットで利益を出す事もできる。

どちらにしても最後は資金力のある方が、断然有利でしょうね。
Posted by ちょんまげくん at 2009年09月17日 09:37

三好っ・・・!
人格破綻者ならぬ価格破壊者っ・・・!

それにしても講師が怖い・・・
これはいずれ飲茶さんが講師に焼き土下座をさせるフラグなのか
Posted by にっぱー at 2009年09月17日 15:17

おもしろいですね。

でも、これが「商品」ではなく、「株券」であったらなら、どうするんでしょうね?
仮にその株価が下落していくしかないということが見えているなら、ゴミ屑になる前で売れるだけ売って、被害を最小限にとどめるのが正しいように思われます。

キャッシュの価値が一定であるという考えにとらわれると、原価割れというのはありえないようですが、逆に、「商品の価値が一定である」という観点から見れば、(労働力の投資されている分だけ)キャッシュの価値が上がっていることになります。

5000円だった商品が2500円で売られている頃には、逆にいえばキャッシュの価値が元の2倍(は言い過ぎでしょうが)になっているわけで、そうなれば、3000円でキャッシュに変換出来た人がいれば、その3000円は(元のお金で)6000円の価値であり、(元のお金で)1000円の利益を得たことになります。
(今のお金に換算すると、500円の利益です。)

これを眺めたとき、仮にお金を使わなければ、5000円が(元のお金で)10000円の価値に変わっていることが分かります。
(実際、5000円だった商品が2つ買えるわけですよね)
これが、時間経過とともにお金が増える原理――つまり利子の原理であると考えられます。
Posted by いも at 2009年09月18日 01:29

勝ち組の人が負け組を見てほくそ笑むのは分かる。しかし勝ち組と呼んでいるものの、別に利益を上げているわけじゃなく負債を最小限に抑えてるに過ぎないわけだ。とどのつまり損している人をみて得をしている気分になっているだけなんじゃないか。安全という愉悦を楽しんでいるだけなんじゃないか。真の勝ち組とは負け組を笑うのではなく、自分の利益の為に使う人間だ。

と、思ったような気もする。
やはり人間は搾取する側とされる側に分かれるのか。
Posted by しの at 2009年09月19日 13:46

>いもさん
「株券」だったら、というのはそもそもの前提がひっくり返りますから、あまり意味のない仮定では。
このゲームでは借入を行なっていますから、通貨の現在価値だけ考えても無理がある気がしますし、商品価値が変わらないなら(他の要因がなければ)製造コストも変わらないわけで。
最後の一行、DCF的な話かと思いますが、このケースではちょっとそぐわない気も……私の理解力が乏しいのであれば申し訳ないです。
Posted by ごん at 2009年09月25日 22:22

初めて見たのですが、この続きはもう無いのでしょうか?
Posted by アット at 2011年05月10日 01:32

す、すみません、続き読みたい・・・ですよね。
Posted by 飲茶 at 2011年05月10日 17:59

哲学の話題から飲茶さんのHPに行きつき、
この経営セミナーのストーリーにハマりました♪
「今気づかなければダメなのだ!」は
まさに人生の真実、名言ですね。

で、上の方と同じなんですが、
続きが読みたくて仕方がありません>_<
とは言えセミナーを受けられたのは
もう3年以上も前なんですね…f^^;

(飲茶)うぅ、東洋哲学入門書が終わったら、必ずや……。
Posted by はるかぜ at 2011年07月12日 01:42

文才あるなぁっておもいます。
読んでてワクワクします。
引き込まれてしまいます。
カイジとか読んでるからなおさらなのかもしれないですが^^;

今、気がつかないといけないっていうのは
本当に上手いこと言うって思います。
かなり体の芯に響きました。

私も続きが読みたいので、書いてほしいに
一票入れます!
ただ、書く側からすると
書くのも大変なんだとおもいます。

仕事も忙しいだろうし、
実際、書いたところで飲茶さんには
お金も入らないものだろうし。。。
でも読みたいのです。

気長に待っていますのでお願い致します。
Posted by 元デイトレーダーサラリーマン at 2011年07月18日 00:20

ありがとうございます。本当にあったことだから(内面描写とかはかなり脚色してますが、展開は本当)、
さくさく書いちゃえばいいんですけどが、なんか後回し後回しになって現在にいたります汗

せっかくここまで書いたし、伝えたいこともあるので、なんとか頑張ります!
Posted by 飲茶 at 2011年07月18日 08:15

いつも楽しく拝見しています!

続きが気になりますw

来年の私のクラスの読書感想文の本は、哲学的な何か、あと数学とかにしようかと思ってますw

是非、お時間あったらこのカテゴリの更新を!
Posted by 貧乏高校教師 at 2012年02月15日 14:51

みなさんがここまで言って書かないんですからもうその気が無いんでしょうねぇ
すっごく面白かったので一気に読んじゃったので残念です
まぁしかたないですよね一銭にもならないわけですし…
Posted by 餃子 at 2012年03月18日 19:44

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