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2012年05月09日

経営者育成セミナー参加日記(17)〜計画〜


昼休みが終わり、午後のセミナーが始まった。
しかし、講師はすぐにゲームを再開しなかった。

はい、ではゲームを再開する前に……、
 バインダーの○○ページの用紙をつかって
 予算計画表を作ってみてください


講師は次のことを僕たちに強く述べた。

今までのような場当たり的なやり方
(たまたま手持ちに現金があるから使う的なやり方)で
投資をしてはいけません!
そのような場当たり的なお金の管理の仕方をすれば
痛い目を見ることはわかったはず!
だから、きちんと、1年間で、
どれだけの材料を買い、どれだけの商品を作り、いくらで売り、
そして資金の何割を投資金額に割り当てるのか、
それらを事前に計画表として作っておきなさい!
そして、実際の行動を「実績」として書き込んで、
決算のときに、どれくらい予測と差があったのか、
きちんと確認しなさい!

僕は講師の説明を聞きながら、
やはりこのセミナーはよく出来ていると感心した。

もし最初にいきなり「予算計画」の話をされても、
その重要性にはあまり気づかなかっただろう。
それどころか、
物事は計画どおりにはいかないよ、むしろ、
 臨機応変に対応するのが、優れた経営者だろ

と反発していたかもしれない。

だが、いま僕たちは、
基準を持たず、無計画にその場のノリや雰囲気で
経営することの愚かさを理解している。
手持ちに現金があるから、ちょっと投資してみよう
現金がなくなったから、なんとか在庫を売ろう
そんな、その場その場の状況で
「次の行動」を決めるようなやり方は
経営として良くないことを、みなが身にしみて実感している。

なるほど、「投資」という新しいルールを
なぜ今になって追加したのか、その理由がはっきりした。
きっと、最初から投資カードを追加していたら、
みんなわけもわからず、無計画に現金を「投資」に費やしていただろう。
それでは、投資が成功しようが失敗しようが、
そんなものは「たまたま成功した」「たまたま失敗した」にすぎず、
「経営を学ぶ」という観点では、何の意味もないのだ。

さて、ともかくこうして僕たちは、
損益分岐点」という基準を明確にし、
投資」という新しいルールを理解し、さらには、
資金の何割を「投資」に費やすかの「予算計画」をたて、
いよいよゲームを再開するわけであるが……、

仕切りなおしのおかげもあり、午前中のあの閉塞感は、
いつのまにかなくなっていた。
価格破壊が起きることもなく、
また、バカみたいに投資に現金を使いまくる人が出ることもなく、
整然とゲームが行われていった。

そのとき、僕は、少しだけ……
いや、かなり希望を取り戻していた。

新しいルールが追加されたのだから、
そのルールをうまく使って、今の状況を打破できるかも……、
という意味での希望はもちろんあったが、
それよりなにより一番大きかったのは、
「価格破壊時代の馬鹿な価格競争に自分は参加していなかったこと」であった。

結局、なんだかんだ言っても、僕の損失は、莫大な借金の金利だけであり、
実はそれ以外はまったく損していないのである。
一方、価格破壊時代を送った経営者たちは、
原価割れで売り続けることで、累積で損失を積み重ね続けてきた。
だから、原価割れの損失を積み重ねていない、という意味では、
実は参加者の中でも、僕はかなりマシな状況なのである。
きちんと資産の比較をしているわけではないから、
正確なことはわからないが、案外、もしかしたら、
僕の会社の資産ランキングは「中の上」ぐらいいっているかもしれない。

そして、希望要素はそれだけではない。

そもそも僕がイベントカードを引かず、
今まで何をやっていたかというと、
設備投資をしてない小さな工場を毎ターン少しずつ動かして、
コツコツとちょっとずつ商品を作っていたのであった。

そのため、買占め戦略によって
あふれんばかりになっていた僕の材料倉庫は、
少しではあるが材料のコマが減り、
商品倉庫にはそれなりの量の商品のコマが積まれるようになっていたのだ。

だから……、今回追加された「おまけカード」をたくさん集めて一気に使い、
これらの商品をドカンと高く売りさばくことができたとしたら……、
いっきにプラス!
ランキング上位の経営者の仲間入り、
ということもありえるかもしれない!

そう考えてみると、やはり逆転の肝は……、

おまけカード!

このカードを大量に集め、
一気にドカンと使って、
一気に高く売り抜ける。

それが、今、最新の、ベストな戦略!


少なくとも、目をつぶってイベントカードを引いて、
「火事カードか、材料転売カードかを引き当てるギャンブル」
をするよりかはよほどマシは戦略であろう。

こうして、僕はかなり極端な予算計画を作った。
手持ちの現金をほぼ100%、投資(おまけカード)に費やすという
大胆な計画。
まず、今年は、カード集めをし、
来年、そのカードを使って一気に売り抜けるという目論見だ。

「では次、飲茶さんの番です」
「はい。おまけカードを買います」

僕は計画にしたがい、さっそくおまけカードを買いあさった。

それからしばらくすると、
「おまけカード」をうまく使って高値で商品を売りぬいていく経営者が
何人か現れはじめた。
彼らは、そうして得た大量の現金で、さらに投資をし、
どんどん価格競争を有利にしていった。

あせるな、あせるなよ……。
釣られて中途半端に「おまけカード」を使ったらダメだ。
ためて……ためて……ドカンと使うのだ。


目の前で、「おまけカード」を使って儲けている人をみても、
僕の心は比較的穏やかであった。
おそらく、予算計画があったからだろう。
今年は我慢してカード集めをする、そう決めたのだ。
そういう指針があるからこそ、予算計画を作ったときの前提が崩れないかぎり、
他人が儲けようが、どうしようが、ぶれることはない。

そして、次の年が始まった。
よし勝負だ! 計画どおり、前年に集めた「おまけカード」を使って、
一気にドカンと売り抜ける!

「次は、飲茶さんの番です」

はいっ!商品を30個、売ります!
 そして、付加価値カードを10枚!
 全部使います!


意気揚々と、市場へ!さぁ、勝負だ!

これで決める!今までの悪い流れを断ち切り、
現金を手に入れ、プラスのスパイラル、
成功の歯車を回すのだ!

しかし……。

「はい、Dさんの商品が売れました」

な……、なんだそれ!?
え?え?ええええええええええええ!?


価格競争の結果、僕が「おまけカード」を含めて
提示した金額より、大幅に低い金額が提示されたのだ。

なんでだよ!なんでだよ!そんな低い金額で売るのは、
おまえの計画にないだろ!どういうことだよ!
ちゃんと計画どおり行動しろよ!


そう叫びたかった。だが……、わからなくもない。
たしかに、おまけカードは、「価格競争」で負けても、
消費されてしまうカード。
だから、ここぞと「おまけカード」を大量に使う人が出てきたら、
損益分岐点以下の安い金額をつけて「それを潰す」というのは
ひとつの戦略だろう。
そして、嫌な予感は価格提示の前からしていた。
競合商品を「1個だけ」で参加している人がいたからだ。
1個だけなら、「損益分岐点以下」で売ったとしても、
はっきり言って、たいした害はない。予算計画も「平均でいくらで売る」
という内容だから、1個だけ安く売っても、
予算計画からそう外れることもない。
だから、大量の「おまけカード」を投入してくるやつがいたら、
1個だけ競合商品をだして、理不尽なほど安い低価格をつければいいのだ。
それであっさりと「おまけカード」戦略を潰すことができる。

だが……、だが……。
今まで、そんな動きは一度もなかったのだ。
僕以外にも「おまけカード」を大量に投入した経営者はいたのである。
でも、そいつのことは、みんなスルーしていた。
わざわざ、そんなふうに損益分岐点以下の低い価格をつけて
潰す」なんてあからさまなことはしていなかった。
そんな「流れ」なんか、今までどこにもなかったのだ……。
それなのに、なぜ僕のときだけ、いきなりこんなことに……。

もちろん、こんなのはたまたまで、
「おまけカードつぶし」という戦略に誰かが気づき、
それがちょうどいま実行されただけ……、
ということではあるのだろう。
でも!だったら!何も僕のときじゃなく、
他のやつのときに実行すればいいのに!
くそ!なんでこんな理不尽な目にあわなきゃいけないんだ!


「たまたま、自分の身に不運が降りかかっただけ」

このとき僕はそう考えていたわけであるが、
思い返してみれば、なんという甘い、ずれた認識だったのだろうか。

くそ!また一からカード集めだ!

次の年、僕は再び「おまけカード」を集めた。
そして、さらに次の年、その集めたカードを使って
もう一度、勝負!

しかし。

「はい、Bさんの商品が売れました」

またしても、理不尽な低価格による「おまけカード潰し」。
現金を費やし、投資したおまけカードが
一瞬にしてゴミと消えた。

ぐうぅぅぅぅううううううぅぅぅぅぅぅ!!
な、なんで……、なんでこんな……。


いったい、何が起きているんだ。まったく理解できない。
なぜ、俺のときだけこんなことが……。

はっ!

僕は、そのとき見てしまった。
このゲームに参加している経営者の大多数が、
僕のこの失敗をみて……
楽しそうに笑っているのを。

にやにやにやにやにやにや
にやにやにやにやにやにや
にやにやにやにやにやにや
にやにやにやにやにやにや

僕はやっと理解した。

これは……

これはイジメだ!

あきらかなイジメ……!
経営者による経営者イジメ!

くそ!くそ!くそ!くそ!
こいつら!こいつらあああ!!!!


2012年05月10日

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2012年05月21日

経営者育成セミナー参加日記(18)〜制裁〜


経営者による経営者イジメ!!

うぅぅぅぅ、なぜだ、なぜこいつらは……。

まったくの意味不明。
なぜ、彼らは初対面の僕に対して悪意を持ち、
理不尽な価格競争をしかけてくるのか……。

だが、突如、僕はすべてを理解した。

理解のきっかけは、例の「価格破壊男」だった。
彼も、僕と「同じ目」にあっていたのだ。

うわあああ、せっかくカードを
 たくさんためたのにー!


その言葉に、どっと場が沸く。

そうか……そういうことか……。

「僕」と「価格破壊男」には、ひとつの共通点がある。
それは、このゲームの空気を乱したことだ。

僕は、ゲーム開始早々、材料買占めにより、場を混乱させた。
そして、価格破壊男は、原価割れの金額を幾度も提示して
価格破壊時代のきっかけを作った。

だからつまり、これは制裁なのだ……。
「場を乱す異端者」を除外するという
「当たり前」の基本的な社会のルール。
それが、このイジメ行為の正体だったのである。

いや、でも、それにしたって……

そう。こんなふうに、
みんながみんな示しあわせたようにターゲットを固定化して、
突然イジメを始めるなんてことがありえるだろうか。
「あいつむかつくから、ちょっとからかってやろうぜ」的な話し合いが
裏でされていたならともかく、
いきなり自然発生的にこの状況が生じたとはどうしても思えない。

――などと思索しながら、ぼんやりと競売を眺めていた僕は、
あっ、と声をあげそうになった。
ゲームの場にいくつかの「仲良しグループ」が
できあがっていることに気がついたのだ。

もちろん、そいつらは談合のようなあからさまなことをするわけではない。
だが……、
「僕の邪魔はしないでね」
「うん、そのかわり、僕のときに邪魔しないでね」
的な暗黙の了解、すなわち
グループの仲間同士では価格競争をしかけない
という相互不可侵の関係が
出来上がっているのが明らかにみてとれた。

いったい、いつの間に、そんな関係ができたのだろう。
最初から、互いに知り合いだったのだろうか……。

あ……。

あああああああああああああああ!!

そのとき僕は、ようやく
自分が犯した「致命的なミス」に気がついた。
そういえば、講師はお昼休みのまえ、こんなことを言っていた。

お昼休みは、少し長めにとって、1時間30分とします

お昼休みは、少し長めにとって……

少し長めにとって……

ぐぅぅうううううううううううう!
なぜ気がつかなかったのだろう。
講師がなぜわざわざ「少し長めにとって」と言ったのか、
なぜその意味を考えようとしなかったのだろう。

あれはようするに、「お昼休みを長くしてあげるから、
この時間を利用して、一緒に昼食をとるなりして、
人間関係を作ってきなさい」というヒントだったのだ。

僕は、このゲームの本質を完全に見誤っていた。

この経営ゲームで「勝つこと」を考えた場合、
もっとも重要なのは
「損益分岐点を把握すること」でも、
「予算計画を立ててそのとおりに遂行すること」でもない。
本当に大事なのは、「人間関係を構築すること」だ。
だって、それが一番、勝利に近づく行動ではないか。

つまるところ、このゲームは「人間同士」の「戦い」であり、
「競争」であり、「足の引っ張り合い」である。

だが、たとえば、一緒に食事をしたり談笑したりして、
それなりの人間関係ができてしまえば……、
あからさまに相手の足を引っ張ることはできなくなるだろう。
人情的に言えば、仲間以外の人間の足を引っ張るようになるはずだ。

仲間がいることのメリットはそれだけじゃない。
仲間がいる人には、他の人も「邪魔」がしにくい。
なぜなら「あからさまな嫌がらせ、邪魔」をして不評を買えば、
今度は自分がそのグループのメンバーからターゲットにされて
報復される可能性があるからだ。
グループに所属している経営者に対して、
あからさまな「邪魔」をするのは明らかにリスクが大きい。

一方、グループに所属していない個人経営者なら
どんな「邪魔」や「嫌がらせ」をしたってかまわない。
所詮は個人の力。報復されたってたかが知れている。

この時点で、もはや仲間がひとりもいない経営者の
勝ち目はない。
損益分岐点をどう計算しようが、
どんな素晴らしい予算計画を立てようが、
グループ会社VS個人商店」という構図で、
勝てるはずがないのだ。

そして、そのグループ会社を作り出す、
もしくは、グループ会社に参加する唯一の機会が、
昼休み」だったのである。

だから、みんな席を立ち、食事に向かい、たっぷりと時間をかけて
談笑し、「人間関係、人脈、コネ」を構築してきた。

なのに……、なのに……、自分ときたら……、
彼らがそうしている間、
ひとりで……、
あぐぐぐぐぅうぅぅ……
「ひとりで本を読んでいた」のだ!
渡された新ルールの説明書に夢中になり、
どこかルールに穴はないか
どんなふうにカードを使えば、
 他人を出し抜いて儲けられるか

とか、そんなことばかりを考えていたのだ!

浅い……なんて浅い人間なんだろう!

うわああ、またカードがーーー!

場では、価格破壊男が、またしてもおまけカードを買い集めて
価格競争に挑み、またしても低価格を提示されて負けていた。

彼は、悲鳴をあげ、机に突っ伏し、
それをみて、みんなは声を上げて笑った。

僕は、価格破壊男に怒りを感じた。

バカ!バカ!バカ!気づけ!気づけよ!
お前は、みんなからオモチャにされているんだぞ!
あと、やめろよ!そのリアクション!
そうやって、リアクションをとるから、
みんなが笑い、それが面白いから、
またおまえをイジメるんだ。
それに気づけ、気づけ……
うぅぅぅぅぅぅ……
気づいてくれよぉ……(ぼろぼろ)

だが本質的なところで、僕は価格破壊男を責めることはできなかった。
自分だって気づいていなかったからだ。

自分の会社だけ儲かればいい、他の会社なんて全滅してしまえばいいんだ
というのが僕の本音であり、
僕はその本音のとおり行動して「買占め」という選択をしたが、
それにより「業界」から総すかんをくらってしまった状態であった。
にもかかわらず、自分は、そんなことに気づかず、
みんなと同じ対等な「参加者のひとり」として、
せっせと投資して「おまけカード」を買い集めていたのだ。
自分の勝利を想像してニヤニヤとしたバカ面を晒しながら。

完全なKY。なんて空気が読めない人間なのだろう。
他人の表情や動きには敏感なくせに、
自分自身が他人からどう思われてるかなんて、
想像したこともなかったという愚かしさ。


今なら、「昼休み」に皆がどんな談笑をしていたか、だいたい想像がつく。
彼が『価格破壊男』なら……
僕は『材料買占男』……。

『あいつらってちょっと変わってるよな』

初対面同士の皆が、盛り上がれる共通の話題として、
僕たちはかっこうのネタであっただろう。

ともかく、ここにきてはっきりとしたことは、
僕の勝ちが100%なくなったということだ。

もうここまできたら、皆は、僕と価格破壊男に徹底的に意地悪をし、
最後まで「笑いのネタ」にして楽しむだろう。
実際、「僕たちに意地悪をしてそれを笑いにして面白がる」
という空気(群集心理)がすでに出来上がってしまっていた。
こうした空気がある以上、どんなに「おまけカード」を集めても、
絶対に潰されるに決まってる。かといって、いまさら「研究開発カード」を
集めるのも手遅れ。なにより現金の余力がない。つまり、八方ふさがり。

駄目だ……。絶対に勝てない……。

こうして何も打つ手がないまま……、時間だけが流れ去り……、
ついには僕たち以外の参加者全員が
「研究開発カード」を何枚も持ちはじめた。

もはやどうあがいても、
僕たちが価格競争で勝てる要素はなかった。
まるで、少年漫画で言うところの、
「戦闘力のインフレについていけなかった脇役キャラ」のように
「レベルの違う価格競争バトル」を
僕たちはただ指をくわえてみていることしかできなくなっていた。

僕は、もう……
うなだれるしかなかった……。