2010年08月09日

史上最強の哲学入門、製作秘話(5)

は、浜岡賢次せんせい・・・

こうして僕は意を決して扉をくぐり、
ついにバキの作者「板垣恵介先生」と対面したわけですが……。
ありのまま起こった事を書き綴ろうと思います。

■板垣恵介先生の見た目
もう53歳にもなるというのに、勇次郎みたいな黒いラフな
シャツがよく似合う、漫画家とは思えないみずみずしい筋肉に
包まれたナイスガイでした。
そしてやっぱり「オーラ」がすごかったです。

■まずは一緒に格闘技を観戦
お邪魔させたいただいたとき、ちょうど板垣先生は
テレビで格闘技の試合を観ているところでした。
それで「せっかくだから一緒に観よう」ということになり、
板垣先生と試合を観戦。これがもうかなり面白い試合で、
和気あいあいとした雰囲気で楽しく観ることができました。
おかげさまでだいぶ緊張をほぐすことができて良かったです。

■本題に入らず、格闘技の話
格闘技の観戦も終わり、さっそく打合せに。
しかし、観ていた試合が面白かったせいか、
いっこうに本題に入らず、延々と格闘技話に
花を咲かせてしまいました。

■やっと本題
哲学者を知の格闘家、
 哲学史を真理(最強の論)を求める戦いの歴史
 と見立てた哲学入門が書きたい、
 そして板垣先生が描いた哲学者をみてみたい


という想いをまずはぶつけてみました。
すると板垣先生から「そもそも哲学にとって、真理とはどういうものなのか?
やっぱりひとつしかないのか、それとも複数あるのか?

ということが聞かれたので、おそらく板垣先生の性に合うだろうと思い、
ヘーゲルの弁証法を紹介してみました。

どんな真理を提示しようと必ず相反する真理が提示され、
それらが対立することによってさらなる優れた真理が発見される


つまり「闘争を繰り返すことによって真理は高みへと登っていくのだ
というお話。

その話のチョイスは良かったらしく、板垣先生はとても興味深そうに聞いてくれました。
が、次の板垣先生の言葉に面をくらいました。

『対立によって真理が成長していく』という話が正しいなら、
 その話自身についても『対立する別の考え』が出てこないといけないはず。
 そのへんはどうなのか
」と。

落ち着いていれば『史上最強の哲学入門』に書いたように、
キルケゴールの話でもしたのですが、当日は超てんぱってまして、
なんかもう全然回答になってないグダグダ話をしてしまいました(汗)

さて「弁証法自身に弁証法は適用されないのか?」という命題。
哲学に明るい人で、こうして冷静にブログ上で文字として読むなら、
それほど驚くものではないかもしれませんが、
しかし、何の予備知識もなく、いきなり専門外の知識を口頭できいて
こういった根本的な問いがすぐに出てきたわけで僕はとても驚きました。
やはり板垣先生は非凡な才能の持ち主(天才)で、
こういう視点や発想が次々と出てくるからこそ、
バキのような凄まじい展開の作品が書けるのだなあと実感した瞬間でした。

■結論はどうするの?
また板垣先生にこんなことを聞かれました。
それで最終的な本の結論として、何を真理とするのか?

それに対し、飲茶のグダグダ返答。
今回のはただの入門書ですし、
 過去の哲学者たちがどうやって真理を追い求めてきたかを
 ただ紹介するだけですし、それにあの
 僕なんかが『これが真理だ』なんて言ったところで、
 誰も認めないですし、反論とかもその……


それに対し、板垣先生の返答。
何を主張したって必ず反論する人はでてくるんだから
 気にする必要はない。あとで反論が出てくるかもしれないが、
 少なくとも、何年何月何日何時何分何秒、現時点において、
 『これが真理だ』っていうのを自分で決めてしまえばいい!


熱い、熱すぎる。自分はただ分かりやすく哲学を紹介する本
(ある意味無難に点数が取れるもの)を書くことしか頭になかったのに。
板垣先生は、せっかく書くのなら、
現時点の自分が現時点で最高だと思うものを何者をも恐れず書こう
という情熱的なメッセージをぶつけてきたのです。

僕は、板垣先生のその言葉に、ガツンと頭を叩かれるような
衝撃を受けたわけですが……、
結局、その熱い言葉に応えられる自信はなかったので、
たしかその場の打ち合わせのときは、「やっぱり難しいですよー」と
ネガティブな返答をしつつお茶を濁したと思います。

しかし、実際に執筆する段になって、どうしても板垣先生のあの言葉が胸に
深く残っており、史上最強の哲学入門の各章のラストは
自分なりの考え(伝えたいこと)」を書くという形式になりました。
(板垣先生の熱い言葉に少しでも応えられていたら嬉しいです)

■板垣先生が仕事を請けてくれそうな展開に!
さてさて、ここまでの打ち合わせ、話は結構弾んだと思うのですが、
板垣先生はまだまだ様子見で、
「仕事を請けようかどうか」を慎重に考えているという感じでした。

しかし、次の瞬間でした。
板垣先生の目の色が変わるような出来事が
起きたのです!

(続く)

2010年08月12日

東洋経済で紹介されました!

なんと、あの超有名雑誌『東洋経済』の哲学入門特集で
史上最強の哲学入門」が紹介されていました!

「読みやすい本」のジャンルで、
池田晶子先生」や「竹田 青嗣先生」と並んでいて、
とても嬉しかったです(^▽^)

もしかして、飲茶のメジャーデビューの日も近いでしょうか!



2010年08月20日

史上最強の哲学入門、製作秘話(6)

もしかしたら板垣先生に表紙描いてもらえるかも

そう予感させる出来事が!
それは本に登場させる予定であった哲学者たちの
顔写真付きのリスト」を板垣先生に見せたときでした。

すごく、いい貌(かお)してる……

そう小さく嬉しそうに呟いた板垣先生。僕はそのとき、
板垣先生の目の色が変わったように感じました。
おそらく哲学者たちの「ひとくせもふたくせもある強烈な貌(かお)」が、
板垣先生のクリエイター魂に火をつけたのかもしれません。
もちろん、直接聞いてみたわけではないので
なぜ板垣先生がこの仕事を請けてくれたのか、本当のところはわかりません。
しかし、少なくとも僕が、この絶望的な戦い(打ち合わせ)で
風向きが変わった」と感じたのはこの瞬間でした。

■バキの話
「哲学者の貌(かお)」に助けられ、「これはもしかしたらいけるかも」と思いつつも、
実はこのとき、僕は半分ぐらい「仕事の話はもうどうでもいいや
と考えるようになっていました。
一緒に打ち合わせに来ていただいている編集者さんには大変申し訳ないのですが、
だって、「あの板垣先生と会って話ができる」っていう普通ならありえない
シチュエーションですよ! バキの話をしなきゃ、もったいないじゃないですか!
なにより、いちバキファンである僕個人として、
如何にバキが哲学的に優れた素晴らしい作品であるか」を
板垣先生にどうしても伝えたかったのです。
というわけで、仕事の話そっちのけで、以後延々とバキ話がはじまります。

■ジャックハンマーの話
だいたいの場合、格闘技漫画(もしくはスポーツ漫画)において、
ドーピング(薬物で肉体を強化している)キャラというのは、
「2回戦敗退が関の山」の三流のアスリートとして描かれます。
たとえば、薬物のパワーで1回戦は圧倒的に勝つものの、
2回戦で主役クラスにあっさりと負けてしまう、とか。
そう描かれる理由は、
薬に頼って作った肉体なんかより、
 鍛練で鍛えた肉体の方が強い(素晴らしい、価値がある)

という一般的な「常識」があるからです。
実際、オリンピックのドーピング事件を見ても、
「ずるい」「卑怯」「誘惑に負けて安易な方法を選んだ」
というのが世間的な印象でしょう。
ドーピングなんて最低の行為だ」というのが僕たちの常識なのです。

しかし、ここで常識(当たり前とされる正しい考え方)にとらわれず、
ドーピングはホントウに卑怯で卑劣な行為にすぎないのか?」と
問い直すとしたら、それはもはや哲学の領域です。

そもそもドーピングはなぜ悪いのでしょう?
自然ではない人為的なものを取り入れて、肉体を強化したからでしょうか?

しかし、たとえばの話
グレープフルーツが身体の筋肉を柔らかくする」という作用があることから、
あるジャンルのスポーツ選手が毎日グレープフルーツジュースを飲んでいるという、
ありふれたケースを考えてみてください。
それって「自然ではない人為的なもの(薬物)」を取り入れてるのと
同じことではないでしょうか?
(だって、普通の人は月に一回も飲まないわけですから)
「グレープフルーツ(特殊な要素)」を摂取したかどうかの違いで、
明らかに選手たちの記録が変わるとしたら、それはドーピングと同じことです。

もともとトップアスリートたちは、特定ジャンルのスポーツに適した肉体を作り出すために、
「普通ではない食事」や「普通ではない鍛練」を行っているわけですから、
「普通ではない、特殊な要素を摂取して、肉体を強化すること」自体は、
むしろ「やって当たり前」のことで、本来は何の問題もないはずなのです。

まさにバキの
使ったらいい、それで強くなれると思うなら
 迷わずそうすべきだ

という台詞のとおりです。

では、「副作用で、最終的には身体がボロボロになるからドーピングはダメ」という
考え方はどうでしょうか?
それが理由だとしたら、「副作用がなければ良い」ということになります。
もし仮に副作用が一切ない筋肉増強剤が開発されて、試合前にそれを飲めば、
軽々と世界記録が塗り替えられるとしたとき、
それを使ってはいけない理由はなんでしょうか?
結局のところ、副作用がないのであれば、「クスリ」「薬物」という言葉の印象が悪いだけで、
記録を伸ばすために、過剰にグレープフルーツを摂取する
マラソンの前に、炭酸抜きのコーラを飲む
というケースとなんら違いはありません。
したがって、オリンピックを含むあらゆる競技は、
副作用のない筋肉増強剤ができたらその使用を認める必要があります。
それがダメというなら、トップアスリートたちの特殊な食事も
やめさせる必要があるはずなのです。

(続く)

2010年08月22日

史上最強の哲学入門、製作秘話(7)

前回「副作用があるからドーピングはダメ」に対して、
じゃあ、副作用がないものならいいんでしょ!」という観点で答えましたが、
別の観点として「副作用があってもいいじゃないか!
というのはどうでしょう。

副作用があって肉体がボロボロになろうと世界記録が出せればいいんだ!
という考え方はなぜいけないのでしょう?

そもそもマラソン選手など心臓に負担をかけるアスリートは、
普通の人より寿命が短いといいます。それは明らかに、
速く走るための鍛錬として肉体を酷使し続けた結果の「副作用」です。
しかし、トップアスリートたちは、それでもかまわないのです。
彼らは、「今日勝つ」ためならば、
今日世界記録を出せる」ならば、
健全とは言いがたい特殊な肉体となり長期的には身体がボロボロになろうと、
寿命がすり減ろうと、いっこうにかまわないのです。
いやむしろ、彼らはこう言うでしょう。

知れている……!
 長生きできるトレーニングなど、たかが知れている!


こういった長期的には身体がボロボロになってしまうほどの鍛錬によって
「勝利を得る」という行為は、ドーピングとなんら変わらないのでは
ないでしょうか?
もし副作用がある(寿命が縮む)から、ドーピングをやめよというなら、
アスリートの過剰な鍛練もやめさせるべきでしょう。

つまりこのように考えていくと、トップアスリートの「明日を犠牲にする
強烈なトレーニング」は、本質的にドーピングと変わらないわけです。

もちろん、ドーピングは倫理的常識的には決して受けられません。
しかし、実際には、
明日を捨ててでも今日勝利を得たい
明日を捨てるほどの犠牲を払ってでも肉体を強化したい
というのが競技者の本心であり、
それが彼らの「強さ」の本質でもあると思うのです。
そして、その「強さ」の本質を突き詰めていった究極の結論が、
ドーピング」であり、また、その結論を体現したキャラクターが
ジャックハンマーだと思うのです。

そして、そういったキャラクターが生み出されるのは、
板垣先生がきちんと
強さとは何か?強さの本質になっているものは何か?」を
哲学的に根本から問い直しているからであり、
だからこそバキは、いわゆる「格闘技もの」にありがちな
○○流拳法の使い手のさらなる強い敵が現われた
その敵をあっさり倒した使い手が現われた」などといった
単純な展開の漫画とは一線を画する人気作品になっていると思うのです。

というわけで、ジャックハンマーって凄いキャラクターですよね

――といった感じで、板垣先生とジャックハンマーについてお話をし、
そのあとは同じような感じで、最凶死刑囚の話、猪狩の話、
SAGAの話、ピクルの話、
と依頼の話そっちのけで延々と話し込んでしまいました。(汗)

よし!じゃあ、仕事場に行こう!

バキの話がひと区切りついたところで、板垣先生は僕達を
仕事場に案内してくれました。そして、なんとその場で、
表紙のサンプルを「三枚」も描いてくれたのです。
そのどれもがインパクト抜群の素晴らしい表紙で、
ひとつ描きあがるたびに担当さんとふたりで、
それにしましょう!それにしましょう!」と連呼してました(笑)
(ちなみに、このときの三枚目が今回の表紙の原案となり、
後日、板垣先生に仕上げていただきました)
最後は、板垣先生とがっちり固い握手をして打合せ終了。

以上が「板垣先生に表紙を描いてもらうまで」のお話の顛末でした。

その後、僕は本文を書き始めるわけですが、
絶対に駄作を書くわけにはいかず、
それはもう異常なまでのプレッシャーでした。
(とはいえ、おかげさまで、好きなだけバキネタを文章に仕込めるので
楽しい執筆ではありました(笑))

一応、自分の執筆戦略としては、
よくある哲学入門書のように哲学者をただ時代順に紹介する形式だと
説明がぶれてわけがわからなくなるので、
真理、国家、神、存在」とテーマを4つに絞り、
テーマごとに哲学者たちの思考の歴史を物語として
書いていくという形式を考えました。
また、4つのテーマが完全に独立してバラバラにならないよう
その4つすべてに共通する「隠しテーマ」として、
価値(価値観)」というキーワードをひとついれてみました。
他者に『勝ち』を求めるのが格闘家であるならば、
 他者に(新しい)『価値』を求めるのが哲学者である

という隠しメッセージをこめて書いてみたつもりです。

で、実際に出来上がった本の評価ですが、今のところ、
MIXIやアマゾンやツイッターではかなりの高評価です。

なお、つい先日、板垣先生から出版社に直接電話がかかってきて、
かなり好感触な感想をいただきました!
(板垣先生には食事に行こうと誘われているので近々お会いする予定です)
また、そのとき板垣先生から「次回作は書かないのか?」と
聞かれたらしいのですが、これはもしかしたら、もしかすると、
史上最強の哲学入門、東洋哲学編(表紙 板垣恵介)
が実現する可能性はゼロではないかもしれません!

というわけで、
延々とひっぱり続けた「史上最強の哲学入門、製作秘話」ですが、
まだまだ続くかもしれません。今後とも宜しくお願い致します。

やっぱ……
言わなきゃならねェんだよな……
『ホントウ』の勝負はここからだ……!